田村 明子

定価: ¥ 1,470
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発売日: 2007-02-24
発売元: 新潮社
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二個目の金メダルがもたらした矛盾と十字架
私は、30年以上前からのフィギュアスケートファン。伝説のトービル、ディーンの振り付けに関することや、ソルトレイクシティーの疑惑の判定に関する記述には、思わず納得したり、知らない裏側が書かれてあり、とても興味深かった。ソルトレイクシティーオリンピックで、当初、カナダが騒いで、アメリカのメディアが大々的に「不正だ」と取り上げて、カナダペアに金メダルが授与された経緯は、バンクーバーでの採点の矛盾点にもつながってくる。ソルト?で、カナダ組が小さなミスで1位、ロシア組が完璧な演技の2位だったら、2個目の金メダルは、絶対にありえなかった。
特に、各国審判員が、何を基準に点数をつける傾向にあるかやロビー活動において、どのように審判員を取り込んでいくかの説明が興味深い。
バンクーバーオリンピックでも、どんなに採点法が変わろうと、人間の主観が入る採点競技である限り、すべての国の選手にとって、完全なる平等な採点をすることが難しく、採点の微調整や矛盾があっただろう、ということが推理される。ジョニー・ウィアも、最近は、採点とアメリカの政治とが絡んだ矛盾をほのめかしていた。
東西冷戦時から、ずっと生き続ける審判たちの攻防戦が、この競技では、この次のソチオリンピックでも、「報復」の採点が行われるのではないか、と思ってしまう。
筆者は、あらゆる国のスケーターとの交流、インタビューの仕事や通訳なども同時にこなしてきた、スポーツライターだから書けたのだろう。
アルベールビルオリンピック以後からのフィギュアスケートファンに、特にお勧め。
ちなみに同時に「氷上の美しき戦士たち」も購入した。
記録としてすばらしい本
カバーをとると、白と水色の美しいグラデーションが見事です。
新潮社装丁室のみなさん、GJ!
普段からフィギュアスケートが好きで、ニュースや雑誌、書籍などで情報を追ってきた人には少し、物足りないかもしれません。あっと驚く新情報というよりは、初心者向けに史実を解説するような内容だからです。しかし実にわかりやすく、見事にまとめています。
ものの見方が公平で、非常に繊細なバランス感覚の上で執筆されていることがよくわかります。自分の意見はあるけれども、事実はこうだった、と提示して余韻をもたせています。
しかしこの著者の真に瞠目すべき点はこの文体です。
たとえばあのトリノ冬季五輪「現場」にいあわせた人なのですから、いくらでもセンセーショナルにあることないこと(笑)書くこともできるのに、おさえた筆致で実見した情報を的確に書き出しています。少ない文章でも筆者の真意は十分に伝わります。
競技スポーツとはいえ、結果だけでなく、そこにいたるまでの過程や、選手を取り巻く環境、スポンサー問題なども綿密な取材を背景に、端的に語られています。
こういう文章を「うまい」と言うのでしょう。
余談ですがパソコンの取り扱い説明書とか納税の手引きは、こういう人に書いてほしいと思いました。
日本のフィギュアスケートライターさん、カメラマンさんはほとんど手弁当に近いような貧弱な条件で、ただ「好きだから」長年取材を続けてこられた方がほとんどと聞いています。
こうして1冊にまとめられたすばらしい本を片手に、じっくりとこの競技の側面にふれ、理解を深めてほしいです。特に目先の視聴率だの販売数だのにおいまくられて、競技をつぶしかねない浅はかなテレビ中継やくだらないゴシップをのせる週刊誌の作り手の皆さんにも。
読み応え満点。フィギュア観戦はこうありたい!
不覚にも07世界選手権の直後になってこの本の存在を知りましたが、その時点で既になかなか入手困難で、やっとのことでゲットしました。北国出身の荒川静香ファンとして、また総合芸術としてのフィギュアスケートにどっぷりはまってしまっている一ファンとして、大変嬉しく、また興味深く読みました。その過酷さ・美しさ・採点の微妙さの故に、様々な嵐に翻弄されてきたフィギュアスケート。数々の名場面が心をよぎり、自分の人生行路とも重なって感慨深いものがありました。良質のスポーツ・ノンフィクションの楽しさを満喫させて頂きました。
アメリカでは一種の『フィギュア・バブル』が弾けてしまった状態のようですね。アメリカ・マネーの後を埋めるために、日本でのテレビ放映権がNHKから民放に移ってしまったのかしら、などとも考えさせられます。日本は現在、関係者の努力の蓄積が実を結び(不祥事はもちろん責任を問われるべきですが)、稀有の才能が数々生まれ、未曾有の黄金時代を迎えています。ファンとしてはこの上なく幸せな日々ではあるけれど、アメリカの轍を踏むべきではありません。(それでなくても、環境はまだまだ貧弱を極めていますし。)そのためにも、タレントや昨日のおさらいや上位選手の映像攻めではなく、今は無名の世界中の選手の演技をも、上質で冷静な解説とともに、淡々と放映してほしいと切望しているのは、私だけではないと思いたいです。(他のスポーツイベントについても言えることですが。)特に、演技前の集中に入った村主章枝にひと声叫んだ某氏のエピソードなど、象徴的ですね。たとえ善意の行為であっても、ひいきの引き倒しになってしまいます。
一点の曇りもなく公平無私な採点などあり得ないし、人間にはそれぞれ好みもあります。それを踏まえた上で氷上のエッジに命をのせて舞うフィギュアスケーターたちの美しさを、誠実に描き出した一冊だと思います。著者のフィギュアやスケーターたちに対する愛情を、ひしひしと感じました。数年後(?)の続編をもう期待しています。

